火袋階段の京町家I
長いあいだ京町家を探しておられてやっと見つけられた物件です。
初めて拝見させていただいたとき、とても状態がよいのにびっくりしました。
床下に石灰を撒いておられるし、
屋根は新しく葺き替えておられるし、
柱・梁などの構造材はほとんどいがんでいないし、
白蟻の害は風呂・トイレだけだし、
小屋裏は綺麗に掃除してあったし!
こんなによい物件はめったに見つかりません。
古家に価値はつかないとはいえ、住んでおられた方の気持ちが伝わります。これからも大切に住みつづけていただくために、いろいろと工夫をしてみました。
既存の間取りを活かして改修

平格子の町家です。凹んだ跡は綺麗に埋めて全体を塗りなおしました。
瓦はそのまま。照明器具はいつものタイプです。

とても綺麗ですが、内装替だけしています。表の柱は3cmほど上げましたが、他の構造はそのままです。
左に片開き戸がみえます。平格子の裏はほとんどペア硝子FIXで防音し、1枚だけ風通しのために開くようにしています。

座敷があったところです。床の間部分にキッチンをセットしています。書院は壁にし、廊下側に押入れを設けて構造壁を増やしました。
ペンダント照明器具は後藤照明。はじめて使いましたが、とても町家にマッチしてよい感じです。

お住まいのほぼ全景です。1Fは3室ですが、有効に活用するため、座敷とダイドコの間にあった間仕切りは撤去しました。
床はサクラ。壁はシルタッチフラット。天井はそのまま掃除をしています。

大正ガラスが波打っているのがわかりますね。断熱・防音面ではイマイチですが、手作りの味わいがあってとてもよい感じです。
ここはもともと4枚引戸があり、一旦外部に出てトイレに行く構造になっていました。今回改修にあたり、屋根を組み替えています。

松本くんに作ってもらいました。灯篭が当たり前のように奥のほうにありますが、4mほど奥に移動させています。
植木は全て持ち込んでいますが、石類はあるものを使っています。

広縁上部です。もともとの化粧野地があまりにきれいなので、それをそのまま活かしています。
2重野地になっていて、緩やかな勾配が町家の雰囲気を高めてくれています。この灯りも遠藤照明さんです。

通り庭を階段に改造し、踊り場に本箱を固定しています。
通り庭の一番奥が内法90cmほどしかなく、大分悩んで階段を付け替えました。幅が奥に行くほど細くなっているので、階段を違和感がないように収めるのに苦労しています。

通り庭に階段を持ってくると、必然的に階段下に奥行きの長い物入れができます。普通に中段+枕棚だと使いにくくなるので、幅35cm程度の棚を作ってみました。左に見えるのが押入の戸。ガラス戸になっているのは、玄関にあった古建具を再利用しているためです。

階段があったスペースは、杉積層材を使って本棚を作っています。煤竹の垂壁も再利用です。
このチリトリはこの町家に残されていたものです。素敵なので大切に残しています。

下地窓や欄間がある座敷です。
格好はいいのですが、このままだと寒くて冬に凍えてしまいます。下地窓と欄間にはFIXペア硝子。引違窓は外側に外付アルミサッシを設置しました。

この町家はほとんど全て、古い建具を使っています。もともと料理旅館だったので、たくさんの建具が残されていました。そのなかで『いいとこどり』をしています。
右下のトイレ引戸だけが新調。単純なデザインですが、隅丸を作るのが大変でした。
京町家の改修には細かいところに気を配る

通り庭に階段をつけることになったので、側繋ぎの位置を変えています。
足達くんが悩んで、西川くんが指示してます。西川君は段取りが上手くて、他の職人さんをおだててうまく使っています♪

松本くんがミツマタを使って灯篭を移動させています。捨てればゴミ・移動したら宝物です。
でも、足場を組んでちょっと大変…

取材を受ける山ちゃん。ちちんぷいぷいで紹介いただきました。足達くんがちゃちゃを入れています。
やまちゃん、たくさんのスタッフに囲まれてちょっと緊張気味です。

写真の材料はどれも比較的安価な材料ですが、気密性能をあげるために一工夫。ユニットバスを施工するとき、昼休みに時間をもらって腹巻状にグラスウールを被覆。床下の冷気上昇を防ぎます。床の断熱材も真壁ギリギリまで突っ込みます。

通り庭の天井。天井裏に断熱材を充填し、下から杉板を張り上げています。継手が黒く見えているのは、事前に実塗りをしているためです。
比較的新しい町家なので、梁や火打も見えていますが、それも活かしています。

大雨が降ると隣家敷地から通り庭に漏水するのが発覚。お隣さんに協力いただき、葛石の際に水止をしています。
わんわん吠えていた隣家のラムちゃんも工事のときは静かでした。

見積りでは「そのまま」としていた2F表の畳下。どうも真ん中が垂れてふわふわするので、山ちゃんに直してもらっています。ラワンベニヤで調整です。

大工さんの工事があらかた終ったら左官屋さんの登場です。できるだけ荒壁を残したプランなので荒付~中塗をする壁がたくさんあり、なかなか乾きにくく工期がかかりました。
でも厚み8cmほどあるので、調湿効果は絶大です。

左官下塗りが終ると塗装屋さんの登場です。今回は全体をワビスケ塗。
天井はそのままですが、その他は『艶消しこげ茶色』であわしていきます。

杉の積層材を使って、簡単な家具をつくります。材料費+大工さん手間+塗装代で完成。
家具屋さんのように凝った事はできないのですが、押入の中とか2階とかなら目立たなくていいですね。

油左官の上田さん。玄関土間を施工しています。今回はモルタル洗い出し仕上にアクセントとして金華砂利を散らしてみました。
植田さんの背中のビニールは作付下駄箱が汚れないようにするためです。

押入内に冷蔵庫! 昔の5尺7寸の鴨居下にぴったり収まっています。
結構売れている冷蔵庫らしく、他にも同様の需要があるのかもしれません。(^^)
建具以外にも、机や裁縫箱や塵取も残っていました。
建具を再利用するのとしないのとで、これだけ違うものかと少し驚きました。
費用面ももちろんですが、古い住まいに古い建具が違和感なく収まるのはとても心地よいものです。
大切に残されてきた町家を大切に残す。京都で町家改修に携わるものにとって本当に嬉しい出会いだったと思います。
町家を探しておられる方はたくさんいらっしゃると思いますが、よい物件に出会えるまであきらめずに探し続けてみてくださいね。