家づくりヒント集 2 ~古い建物の思い出を残す~
古い建物を全面改修する場合、大工さんに頼んで少しでも思い出を残すようにしたら愛着がわきます。
腐って取り替えざるをえない軒裏垂木の化粧丸太は、よさそうなものを残して手すりにしましょう。根が大きくなりすぎて伐採せざるを得ない百日紅の木は、乾かしてドアノブに流用しましょう。蟻害で根継ぎしなければならない柱でも、背比べの跡が残っていたり、いろんな落書きがあったりすると思い出深いものです。構造体として使いにくい場合は、付柱として利用すると楽しいです。
古いものを残すときの注意点
(素敵なお住まいにするための3つのポイント)
(地板・煤竹・建具・差鴨居など)
加工が少なく大きな一枚板なので、いろんな用途に使えます。
もちろん、以前と同じ使い方をしていもいいのですが、テーブルや机に再加工するえば大変立派になります。幅が500mmを越えると機械で表面の仕上加工ができないため幅を落としがちですが、今となっては入手できない材がほとんどです。欅や桜があれば大変貴重。大切に使いたいです。
100年位燻(いぶ)さないさないとできない材料です。落垣・竿木・壁止などに使えます。
藁葺屋根の下にあるものは、屋根をめくらなければならないので大変ですが、天井裏に敷き詰めてある物はそのまま取り外して水洗いします。
似た仕上がりの『染竹』も販売されていますが、縄目が綺麗すぎるので、本物にはかないません。大切に使いましょう。
柱の位置や敷鴨居の内法を建具にあわせられれば、充分使えます。特に大正硝子・飾引手などがあれば大切に扱いましょう。
ただ、古い建具の高さはほとんど5尺7寸(1730mm)か5尺8寸です。背が高い方には使いづらいのが難点です。
古い建具は、大壁クロス張の住居にはなかなかマッチしない事が多いです。どうしても真壁漆喰塗になりがちです。その場合、設計段階から建具を吟味しておきましょう。
なお、通常建具は、傾いたり沈んだりしている部屋にあわせて取り付けられているため、下框が削られていたり、縦框に板を足したりされている事が多いので注意が必要です。
また、襖は加工がしにくいため、桑縁や唐紙でなければ、新調した方が無難です。引手は取り外しができるため、装飾が施されている場合は再利用する事も可能です。
これを使えば、住まいの印象がぐっと良くなります。梁背が1尺以上のものだと重厚感がでるのでおすすめです。但し、材料が反っていると溝が曲がって使い物にならなくなるので注意しましょう。
仕口ごと取り外すのは大変ですが、2間の差鴨居を1.5間の部屋で使う事もできます。
奥座敷は長押や欄間がつき物なので、差鴨居が生きません。前室やリビングのアクセントに使うといいかと思います。この材料を使うと両面真壁になるため、設計時に相談されると良いでしょう。
(アラキ工務店 荒木 勇)
(柱・天井板・床板・小屋裏丸太など)
仕口や、敷鴨居・廻縁等の穴がたくさん開いているため不向きです。床柱は高価なため再利用したい方が多いのですが、床框や落垣の掘込穴や、茶事で使われた釘穴などが開いているため、そのままでは使えません。短く切って琵琶束や家具の足などに転用したほうが無難です。
取り外しの時に実が割れたり、反ったりします。昔は電動工具などありませんでしたので、釘を1本づつ打っていました。そのとき、わざと錆びさせるため釘を口に含んで濡らしていました。釘が錆びる事により材料が外れにくくするためです。綺麗に外すためには釘を1本づつ抜かなければならないのですが、天井などは5mm程度の厚みしかないので大変困難です。
古くて大きいものなのでよさそうですが、大きな節もあるし、曲がりがあるので加工が大変です。そもそも見えないところに使われている材料なので、化粧には不向きです。残しても使い道を考えるのが難しい材料ですし、運搬にも費用がかかります。
夢を壊すようですが、産地にいけば同様の丸太が大量に野積みされていたりしますので、あえて使う必要がない材料ともいえるでしょう。
(アラキ工務店 荒木 勇)
(再利用しにくくても頑張って残しましょう)
再利用しやすい・しにくいという考え方ではなく、是非とも残しておいたほうがいいものがいくつかあります。それは、両親や自分や子どもたちがその家に住んでいたという証です。
世代は変わっても語り継がれていく歴史。もし、亡くなったとしても、遺影だけでなく、「確かにここにいらっしゃったよ」という痕跡を伝えていくと、目頭が熱くなります。
・昔実家が自転車だったという古い看板
・落書きして怒られた襖紙
・お父さんがよく涼んでいたばったり床机
・小さい頃に張ったシールのある机
・習字の練習をしていてこぼしてしまった墨の付いた床
・亡くなったお姉ちゃんと背比べをした跡のある柱 等等…
これらは、再利用しにくくても残す事をおすすめします。
襖紙は綺麗に切り取って額に入れて飾りましょう。柱は足元が腐っていても根継ぎして再利用しましょう。きっと素敵なリフォームになると思います。
(アラキ工務店 荒木 勇)
(箱階段・煤竹・手すり板・舞羅戸など)
実際に使われていた階段ですが、蹴込がなく、勾配も急なので取り外して階段を付け替える事にしました。
しかし、長い間使われてきた階段。捨てるのには忍びません。そこで、綺麗に掃除して、引き出しを直し、インテリアとして飾る事にしました。
既製品の網代天井は大抵910*1820mmの大きさでベニヤに張ってあります。
安価ですがどうしても継手が目立つ…
そこで、倉庫に眠っていた煤竹の残りを再活用。ちょっとした工夫で引き立ちます。
古家の2Fでは、窓を大きく取り、危なくないように、手すりが取り付けられている事が時々あります。雨がかりのため、梁が傷むので、そのままは使えませんが、捨てるのは少々もったいない装飾がほどこされていたりします。
そういう時は思い切って全く違う用途に転用。今回は、簾掛けとして再利用しました。上品なくりぬき模様が素敵です。
建具は比較的使い道が多いのですが、高さが足りないため、お住まいの方の身長によっては通常の間仕切りには不適な場合があります。そんなときは家具に転用するのもいいでしょう。今回は、下駄箱の建具に転用。全体をワビスケで塗りなおし、違和感のない仕上がりになりました。
建築工事中に壁に組み込んで作りつけのデスクにしてみました。
実は厚みが足りないので、天板の裏側に框桟を仕込んでいます。全体を一度鉋掛けをし、反っているところを削って面あわせをし、後で植物系のオイル(リボスカラー)を塗っています。それでも傷は残りますが、自宅にあった地板なら少々の傷でも気になりませんね。
古いお住まいだと軒に杉化粧小丸太が使われている事もよくあります。そのまま使いたいけれど、断熱効果を考えると面土を埋めるのが大変。。。そこでやむなく取り替えてしまう事も多々あります。そんな時、再利用の方法として提案される事が多いのが「手すりへの転用」です。今回はトイレ。薄皮をめくり、綺麗に磨きなおして使っています。
ぼろぼろになった押入れの建具がありました。周囲は大変傷んでいたのですが、かろうじて中桟木はほとんど傷んでいません。しかも綺麗な化粧が施されていてすてるのは少々もったいないと思いました。そこで、桟木だけを取り外し、建具屋さんに送って新しい天袋の建具に再利用してもらいました。
右側の写真は洗面所建具の取手です。伐採した梅ノ木の根っこを再利用してみました。大した仕事ではないのですが、ちょっとした思い出つくりです。
(アラキ工務店 荒木 勇)
(どれが古材かわからないような仕上)
こちらは、古材を使ってリフォームされたお住まいの空間写真です。
写真に表示されている差鴨居・横桟戸・梁・登梁は古材ですが、その他は新材で製作し、古色塗りにして『どれが古材かわからないような仕上がり』にしています。
そのため、木部全体をベンガラ+玉墨でこげ茶色に塗りに仕上げ、壁は漆喰・床は松板にベンガラ+砥粉仕上としています。
こうして古い材料を使うと費用がたくさん掛かりそうですが、いろんなところで抑えています。天井はビニールクロス。紙張障子は新調していますがスプルースという安価な材料。エアコンは量販店で購入したものを設置しています。
こちらも、同様の方針でリフォームされています。
屋根は新しかったので、そのまま残し内部のみ全面改修しています。改修にさいしては、屋根の荷重をポストで受け、内部に足場を組んで、傷んでいるところを全部取り替えています。
大きな梁がたくさん見えていますが、3本は古い材料です。
見えている柱は蟻害がひどかったので新材です。こうして新材と古材が違和感がないように工夫すると、飽きのこない空間になると思います。
(アラキ工務店 荒木 勇)