増改築相談の受け方・進め方
会場:京建労会館 3階会議室
6月11日(日)に予定されている住宅デーでは、多くの建築会社の者が地域住民の相談にのることになります。それに先だって、相談にのるものの心構えと相談の受け方(見積もりの仕方)について、講義しました。当日は、約50名の建設業者が聴講におとずれました。
いい仕事とは・・・
「棚板をつけて!」といわれて、棚板だけつけにいくと、全然だめですね。というのは、手間ばかりかかる割に、高くついたといわれ、お客さんには喜ばれません。お客さんの家に行って、寸法とって、材料を調達して、また行って取付ける。でも所詮棚板ですから、そんなに請求できませんね… 1.3万くらいですか… これでも高いといわれます。でも、部屋全体のリフォームを提案して10万かかったとしても、「安かった」といわれるわけです。それはなぜか… それは、前者はおこずかいからだしているけれど、後者は貯金からだしているんです。つまり、財布が違うんですね…
いい仕事というのは、「その時は高いとおもわれても後になって安いとおもわれる仕事をするということ」です。
たとえばペンキ塗りについて考えてみましょう。錆おとしせずに上から塗ると安くできます。でも、錆おとしして、2度塗りすると高くつきます。どちらがいいですか? 直したときできあがりは同じように見えますよね……
いいかげんな仕事をすると必ず自分に帰ってきます。相談にくるユーザーは結構雑誌とかを読んでいます。ですから、「当工務店のペンキはなぜ高いのか」をきっちりお客さんに説明し、納得してもらうのが大事なのです。そうすると、信用がうまれ、また別の工事も受注できる可能性が増えるのです。
相談にきた主婦が「台所が暗くてつかいづらいからなおしたい」といったとします。ここで、「どうやったら明るい台所にできるか」を考えてもだめです。それより、むしろお客さんが『本当は何を望んでいるのか』を掴まないといけません。ひょっとしたら、「台所をなおしておいしい料理をだせるようになったら、うちの主人も早くかえって家で食事するようになるかしら…」と考えているのかもしれません。そういう深層心理を掴むのが大切なのです。
こまかい仕事でも、きっちりした仕事をすると次の仕事がきます。一般にお客さんは3年に1回くらいのサイクルでリフォームをすると言われています。
どんな簡単な仕事でも、お客さんに提案するときは、少なくとも2種類のプランを出してください。また、見積書と図面は必ずユーザーに手渡ししてください。(間違っても郵送しないように…)
すぐに仕事にとりかかるだけが大切ではありません。「饅頭かってもつつむ間がいる」ともいいますからね(笑)
相談技術について
次に相談技術の話をします。
単に隣の家と同じにしたい…といわれて、そうしたら、だめです。
たとえば、「隣の家と同じようにうちの屋根を直して…」といわれて、訳のわからない業者が古い家をコーキングし、とりあえず雨漏りをふさいだというひどい話がいまだにあります。雨漏りといっても、家の状態がわからぬまま処理をすると、本当の原因がわからなくなりだめなんですね… たとえば、壁から雨漏りがするといわれて、壁の修理をすれば、そりゃ当面は雨漏りがしないようにみえるのですが、実は壁の中に雨水が浸透していて、気づいたときは家が傾いていたなどという笑えない話もあります。
あと、相談を受けるときに、ご近所の関係も良く注意してください。工事には音と埃がついてまわります。ご近所に受験生がいたりするとそれを施主にいって工事の時期を変えることも大事です。近所の人は文句があっても施工者にはいいません。施主にいいます。この点十分注意して下さい。
話は飛ぶのですが、相談にのるときは、『スケールとレベル』は必ず持参するようにして下さい。親切丁寧がベストです。わたしらは、部屋に入ったときわざわざレベルを見なくても家の傾きぐらいわかるのですが、それでもあえてレベルを出してみせるとお客さんは安心します。一種のデモンストレーションなわけです。
単に、家の不満を解決するのではなく、ユーザーの心の不安も解決するよう心がけることが大切だと思います。
お客さんのいうことにたいし、「そのとおりにしてあげる」のがいいのかどうかというと、いちがいにそうではありません。われわれはプロなわけです。たとえば、床・壁・天井を全てお客に決めさせるようなことをしてはだめなのです。床か、壁だけにする。カラーコーディネートはプロの仕事なのです。
お客の好みは子供の服にでるといわれています。お客に色とか柄を決めてもらうときは、その前にこっちから2~3提案してそこから選ぶようにするほうが良い結果が得られると思います。お客さんが全部決めても、できあがりが悪かったら「良い指導をしてくれなかった」と、必ず不満が残ります。できあがりが勝負なわけです(笑)
それで、お客さんに納得してもらうためには、平面図だけでなく、部屋のインテリアパースもフリーハンドで書くと喜ばれます。増築部分に網掛けをしたり、窓とか屋根の庇とかをかいてあげると親切ですし、お客さんに説得力が生まれます。
契約書の話
今のお客さんはきっちりしたことを求める傾向にありますから、すでに何度か打ち合わせをして、大枠決まっていたとしても、契約書は交わしたほうがはっきりしていいと思います。特に金額がはっきりしますしね… また、契約をすると、住宅控除の対象になりますから、控除申告の時期になって、あわててあとづけで契約書をつくるくらいだったら、着工前にきっちりやっとくことです。
契約書を交わしておくということは、もうひとつ「別途工事がわかってクレームにならない」という利点がありますね。契約書と図面と見積書とセットでわたしておけば、後になって、設備等がかわったとしても、「予算外ですから、その分お高くなります」とはっきりいえるわけです。
メンテとアフターとの違い
これは、皆さんよくまちがえられるのですが、メンテというのは、お金がかかる分。いわゆる"保障"ですね。アフターというのは、無料でサービスする分。いわゆる"保証"です。
ここをよくまちがえる人がいる… お客に商品の説明をきっちりしておけば、ちゃんとお金をもらえます。使っていて磨り減った分に対して、お金を掛けて直すのは当然です。一方、商品の性能から、たとえば、「このガスオーブンは5年間は性能を保証します」といったとき、もしつかえなくなったら、無料で取り替えなくてはなりません。
ピアノを例にとって説明しましょう。ピアノは毎年調律しないと音が狂うわけですが、それをいっておかないと「このピアノは使って3年もたたないうちに音が狂ってきた。不良品だ!」となるわけです。
ですから、システムキッチンとか、ユニットバスとか、エアコンとかの保証書とか説明書を、竣工のときにまとめて整理をしてお客さんに渡すよう心がけてください。