京町家の保存と再生を考える
ラジオアクセスクラブ・まちづくりプラザの第7回目に
弊社会長がバーグランドさんとともに放送に参加しました。
津田なおみ(以下津田): さて、4月に続いて今月のテーマも「京町家の保存と再生を考える」ということで、ゲストをお招きしているんですが、今日お越しいただいているのは、代々町場の大工としての家業を継いで60年。施工者の立場から見ても、木造では京町家は究極の建築とおっしゃっている、荒木正亘さんです。荒木さんは京都建設協同組合の理事長として、京町家の保存とともに、これからの新しい庶民の京町家をどうしたら安くなおして建てられるかを研究され、実践をされています。荒木正宣さんです。よろしくお願いします。
ジェフ・バーグランド(以下ジェフ):どうも今日はよろしくお願いします。
荒木正亘(以下荒木):よろしくお願いします。
京町家は揺れにも強い究極の建築
ジェフ:まず一番最初に、京都建設協同組合の理事長でいらっしゃるんですが、どういう組織なんですか?
荒木:京都市内の中小の建設業者が700社ほど集まっていまして、「住み続けたい京のまちづくりを」というのをスローガンにしてがんばっている協同組合なんです。
ジェフ:それは、京町家に限らず、いろんな新建築のものも全部含めて?
荒木:はい。
ジェフ:700ほどある。
荒木:はい。700社ほどが入っている協同組合なんです。
ジェフ:たくさんの方が参加されているというのは、いろんな意見があると思いますが、荒木さん自身は、「京町家が究極の建設物」という言葉を使っておられるんですが、これはどこが「究極」なんでしょうか。
荒木:古い建物というのはたくさんありますが、この前の震災の時、京都も結構大きな震度だったんですが、町家ではそう傷んだところも見あたらない。断層のあるところは別なんですけどね。それ以外の所はほとんど、揺れても元に戻ると言うんですか。
ジェフ:それは、どうしてですか?
荒木:いわゆる、剛性でなく、ある程度柔軟性がいろんなところに生かされて、そして長く住み続けられるような建物になっているんです。
ジェフ:柔軟性があるということは、多少の動きがあっても…。
荒木:はい。耐えられるんですね。あまりにも強い地震になれば、倒壊することもありえるのですが。我々はいつも命は落とさないような家の補強の仕方をどうしたらできるかを考えています。家が陥没してしまうと住んでいる人が死んでしまいますので、それをどうしたら安い費用で耐震補強ができるかというのを、今も京都市のまちづくりセンターといろいろ話をしているところなんです。
ジェフ:そうすると、昔の人は結構そういう智恵があったという…。
荒木:そうなんですね。ですから、結構材も細くて、屋根も直線でないんですね。むくり屋根というのは、大きな水の所は勾配がきつくて、少ないところは勾配がゆるいと。ですから上の方がゆるくて下の方がきついんです。そうすると、高さもそれだけ低く押さえられるという、いろんな智恵があるんです。
京町家のよさを生かすのは一苦労
ジェフ:荒木さんがおっしゃる京町家のよさというのはよく分かるんですが、住む人とか、建築の注文をする人とかは、そのよさを認めて、直して下さいとか、新しいものでも古い技術を生かしてくださいとか、そういう方がいらっしゃるんですか?
荒木:ええ。そういう方もおいでですよ。しかし、町家を直す時というのは大変なんですね。いわゆる御店のような大きい建物ですと、空間が広いですから、水回りを直しても、ユーザーさんの生活にそう支障もないんですが、間口の狭い小さなおうちですと、ユーザーの要求というのは大変多くて、極端な例を言いますと、車を入れたい、それからお風呂もお手洗いもキッチンも部屋の中に作りたいとか、いろいろユーザーの要求があるんです。
ジェフ:ユーザー側の近代的なものの要求と、京町家の本来の作りとはかみ合うんでしょうか?
荒木:それがいちばん苦労するところですね。どちらかというと表の外観だけを残して、できれば中は近代的にというお客さんが結構おいでですし。京都の町家というのは、いろんな意味で無駄がなくて、使い方によってはいろんな多機能が発揮できて、そしてゆとりもあって、そして夏冬の四季の体感というものも、盆地のような京都でも、それを自分の体に伝えることができる。すごく住みやすいのです。ですから若い人はちょっと見では住み難くて暗いというふうに感じておられると思いますが、その暗さを解消する方法もいくらでもあります。しかし、こうしたニーズに応えられるような形で、どういう形に今後作り上げるかということを、ユーザーさんとお話しする時間がなかなかないんです。
ジェフ:今の荒木さんの言葉の中に、盆地の冬の寒さ、夏の暑さを体感できる、とありました。しかし結構若い人は、それは望んでいないかもしれませんよね。夏は涼しく、エアコンつけて、冬は暖房つけて。だから外観を残して中には新建材を入れて、という注文が来ると、京町家のよさを生かすことができないんじゃないかと。
荒木:まあ、いろんな意味で、町家の定義というのはすごく難しいんですけど、実際どういうものが町家かという定義については、我々も模索をしているところなんです。大きければ町家、それから表構えだけ町家風であれば町家という、そういうのもありますからね。でも中が近代的になるというのも、私は一つの考え方かなと。
ジェフ:なるほど。
荒木:ですから、それをあえて否定するものではないんですが、少なくとも中をメンテナンスができるような構造にできればと。直しても、柱が見えて、メンテナンスができる。そうすると、70年80年経った家が、また70年80年住み続けられると。
ジェフ:それを全部見えない形にしたら、中でどうなっているか分からないから。
荒木:はい。
ジェフ:傷んでいくかもしれないと。
荒木:そうなんですよ。
ジェフ:なるほど。
町家に安く住むために
ジェフ:もう一つ、町家の定義にはいろいろあると、今お話が出ましたが、基本的には町家というのは町の住む家ですから、庶民の家。
荒木:そう。
ジェフ:庶民というのは、お金が。
荒木:なくて(笑)。
ジェフ:ないんです。
荒木:はい(笑)。
ジェフ:これがネックじゃないかなと。町家を保存していくためには莫大なお金がかかるという気持ちがあるんですが、そこはどうなんでしょう。
荒木:一つには、町家の住み方の中で、やはり今までの建物のよさをできるだけ見出して、そして大改造をするんじゃなしに、いわゆる部分改造をすることによっていわゆる安い金額で、住みやすくしようではないかと。
ジェフ:あの、たとえばさっきお話に出た台所とお風呂場、そういうちょっと近代的にしたいなという部分だけちょっとさわって、後は割に古いまま残すという考え方ですか?
荒木:はい。でも、今お住まいになっている町家の住人の方たちというのは、台所やお風呂やお手洗いを直したのは、あまり家を直したという感覚じゃないんですね。アンケートなんかを取りますと、京都市の町家の調査なんかでも、どういうところを改造されましたか?と聞いても、あまり答えが返ってこないんです。
ジェフ:でも、古い町家だと、もともとは土間でしょう?それから、くみ取りやさんが出入りができる道があったり。その時代と比べたら絶対直してますよね。
荒木:直してられるんですけど、実際水回りを直したりしても、あまり家を直したという感覚がないんですよ。お年寄りなんか特にね。
ジェフ:はー。
荒木:若い方たちは、そういう設備を新しくすることで、家を直したという実感をお持ちになっているというのがものすごく大きいんですね。
ジェフ:なるほど。たとえば修理をする時に、古い材料を生かすと、ちょっと安くなるんですか?
荒木:本来昔の町場の大工さんや工務店というのは、できるだけ古い材料をうまく使って、根継ぎをしたり、いろんな造作をする場合でも、古い材料を結構使っていたんですね。ですから、玄関入ったところに中2階みたいになってて、その上に木置きがあってね、その中に。
ジェフ:建てた時に残った材料を全部入れてた?
荒木:はい。残ったやつだとか、直した時に残った板がその中にみんな入ってまして、それをまた大工が見て、これはここに使えるとか言って使ったもんなんです。
ジェフ:ほー。
荒木:で、今の若い工務店さんや大工さんは、ある程度腐ってると取り替えてしまうんですね、全部。
ジェフ:その、腐ってる部分じゃなくて、全部。
荒木:はい。柱を。ですから、ものすごく費用がかかるんです。悪いところだけを根継ぎして、それも前よりも丈夫になるような根継ぎをすれば、結構古い材でも十分なんです。木というのは、100年経った木は外に置いておいても100年持つんですね。雨なんかがあたらなければ。家の中でしたら、もっと持つはずですのでね。何百年と。
ジェフ:なるほど。
荒木:で、その木が焚き物にされるんでなしに、またそこで利用するという。
ジェフ:その700社ほどの協同組合の中で、古いやり方を知っている大工さんが、若い大工さんに教えるというようなことはあるんですか?
荒木:そうですね。そうした教育も必要ですね。それと現場で教えなければダメですね。口でいくら言っても、実際は古くなったところをパッと見て、これはダメだからと取り替えてしまうというのが横行してますから。できるだけ古い材を使うようにしていきたいですね。結構今は古材バンクなんかもありますし。各工務店さんでもストックヤードを作って、そこに古いいい物を置くとか。捨てることを思えば使えるというのをお持ちだろうと思うんです。
ジェフ:今ラジオをお聞きのみなさんの中には、京町家に住んでおられて、ちょっと修理を頼みたいんだけど、高いん違うかなあ、と思う方もいると思いますが、そうじゃなくて、まあまあだと。できるだけ庶民に合わせていこうという。
荒木:そういうことです。そうでないと、実際京都の町はすぐつぶれていきそうな感じがしますから。
ジェフ:なるほど。心強い言葉をいただきました。
津田:はい。ありがとうございました。今日は荒木正亘さんにお越しいただきまして、京町家のことをお伺いしました。これからもがんばってください。
ジェフ:どうもありがとうございました。
荒木:失礼します。