アラキ工務店 京都市右京区:京町家、古民家、大工さんと建てる家

アラキ工務店 株式会社 アラキ工務店

住いの痛みの見つけ方

日時:2000年7月1日13:00~
会場:ハウメッセ京都住い体験館

 「すまいにかかわるさまざまな事柄について楽しく学び、語り合う場を設けよう」という趣旨で、1999年から『すまいスクール』が開講されております。弊社の社長は、その第4回目の講義を担当しました。定員50名ですが、3ヶ月前には定員いっぱいになり、残念ながらかなりの方が来年受講にまわられたと伺っております…


 こんにちは。私の会社は職人10人、見習い5人、全体で20人という、職人集団の会社を経営しております。最近は、特に、中京区とかに残る古い家の補修を手がけております。
 今日はすまいの痛みの見つけ方という題をいただいております。ただ、1時間半と言う時間でどこまでいえるかわかりません。すまいといっても、京町家と一般住宅では、点検の仕方もちがいます。皆さんの中で、京町家…いいかえると、柱の見える家に住んでいらっしゃる方はどれくらいいらっしゃいますか? 半分弱ですか… わかりました。

家の点検意識の移り変わり

 私は『京町家作事組』の副理事をやっておりますが、そもそも町家には『作事屋』というのがめんめんと家のメンテをやっておりました。むかしは、流しも木で作っていたような時代でしたから、そういったのも皆出入りの大工が作っておりました。
 今は戦後の住宅制度・土地制度改革の中で、皆さんが家を持つようになり、作事衆もいなくなってしまいました。それとあわせて、お客さんも、いつもメンテするようなことがなくなり、痛んでからいわれるようになりましたね。よく、年一回の大掃除のときに畳をめくって徹底的に掃除をしたものですが、そうしたときにすまいの痛みがみつかるものでした。最近は大掃除という習慣もなくなってしまいましたね。
 たとえば、「風呂から白蟻がでた!」と言われ、「白蟻屋にたのんで欲しい」という依頼をうけるのですが、白蟻がでるということは、既に何処かが白蟻に食われて痛んでいるわけです。そうして、白蟻駆除代はかかるは、柱が痛んで水漏れがするはという事態になるのです。ちょくちょく点検するとそんなに費用がかからずになおせるのですが、今は大変になってからなおすのでお金がかかるのです。

京町家を点検するときの心得

基礎

 家というものは、新しく建てられるほどGL(家を建てるとき、基準となる地盤面)が高くなっていますね。そうすると、古いおうちは回りのうちに比べるとどうしても地盤が低いままになっています。ですから、床板をあげると土が湿っているケースが結構ありますね。また、風通しが良くても、埃がはいってしまうと湿度もいっしょに入ってきて結局は家が湿っぽくなってしまうというケースが良くあります。
 そういう家ですと、床下に砂を撒くとけっこう湿気が押さえられるものです。最近床下に炭をおくのが流行ってますが、これも湿気を取るためのものなのです。

 また、古いお家ですと、柱の周りに結構埃がたまっていて、柱の下が白く濁っている時があります。そこを掃除してやると、柱が腐らないだけでなく、蟻道もふさぐので白蟻の害も押さえることができます。是非やってみてください。
 次に基礎が割れているというケースですが、昭和10年前後の施工の家だと、基礎のある町家も作られ始めています。ただ、当時の基礎コンクリートは、生コン工場で作って運んだものではなく、現場で作ったもので強度的には今一つです。こういう基礎の場合、「割れた」からといって、あまり心配しないでいいと思います。だって、基礎といっても、町家の束石が置き換わっただけですから…
 一方、今の「逆Tの字型の基礎」の場合は、角から1mあたりの所がわれたら、地盤が相当痛んでいると思った方がいいのではないかと思います。つまり、要注意ということです。基礎の角とか、端から2mのところとかは、心配することはありません。
 基礎の足元に壁土がおちて盛れているという場合は、外壁が痛んでいると思ってください。
 また、排水が悪くて大きな雨で水がたまるようなケースがありますね。そうした場合は、配水管をあけてもらい、そこに水が溜まっていなければ、ジョイントが痛んでいるケースが多いとおもいますから、お近くの信用ある水道やさんに声を掛けていただいたらいいんじゃないかなあと思います。

 歩くと水屋とかガラス戸とかが、ガタガタ音がするというのは、大引きとか、根太とかが痛んでいる場合が多いですね。根太がけとかが痛んでいても音がします。また、床がふわふわするというのも同じく根太が痛んでいますね。
 どれくらい痛んでいるかというのは、歩くところの遠いところの戸がガタガタするのか、近いところの戸がガタガタするのかで違います。遠いところの戸の場合はけっこう痛んでますね。一方、敷居を踏むと建具がガタツクというのは、たいした事は無く簡単になおります。これは、敷居の下の木が痛んでいるのですが、昔は、大掃除のとき、敷居をはずして掃除したぐらいですから… 大工半日くらいでなおります。

 壁の変色については、皆さん気になるところだと思います。壁の上のほうが変色するというのは、屋根との間に隙間ができたということですね。これを直そうとすると、足場を組まないとだめですのでちょっと大掛かりになりますが、何処が悪いのかはわかりやすいともいえます。一方下が変色している場合は、ちょっと困りますね。床下から毛細現象で水があがってくる場合と、壁の亀裂から水が染み込む場合の2つがあり、両方の対処をしなければなりません。昔の家ですと、壁をふ糊で練ってつけてあったりしますが、漆喰の場合でも5年くらいが見直しの時期ですので、定期的に手入れしてやったほうがいいと思います。
 「手や衣服にすれると色がつく」というのは、壁の老化現象がはじまっていると考えてください。そういうときには、次の手入れを試してください。まず水刷毛で壁を塗ってやります。そのあと、ビニールの手袋をして、壁をごしごしこすってやるんです。そうすると、ちょっと、壁の老化が止まって元に戻ります。
 壁が膨れてきたというケース、特に廻り縁のところの端がふくれてきたような場合は、下地が痛んでいると思われます。

 「梁と梁の間の仕口にすきまができた」というのは、どこかの柱が下がっている証拠です。ですから、柱を上げてやると仕口もきれいになります。その上で金物をつかって補強すると、地震がきても大丈夫になります。
 では、柱をどうやって点検するかですが、昔の古い家には、押入の上とかに必ず屋根裏や、天井裏にはいれるような仕事がしてあるもんです。今の家の場合は点検口があけてあるのでそこから入ります。
 「シャチやコミセンがない」といった場合もありますが、これは、ヒラタキクイムシが全部食ってしまっているんですね。阪神淡路大震災のときに、そのおかげで倒壊してしまった家が結構ありました。これは、また、あらたに打ちこめばいいんです。

天井

 大和天井とか、竿縁天井とかは、高そうにみえますが、意外と安いです。6帖で4万円ほどです。

屋根

 屋根が痛んでいるのを見るときは、正面からみて右端にたって屋根全体をみてください。
 大きく痛んでいるところ(波をうっているところ)がわかります。
 ちなみに屋根葺きの出来不出来をみるときは、左端にたってみてください。少しの葺きムラも解ります。
 「軒裏の板が変色した」という場合、必ずしもケラバのあたりで痛んでいるわけではありません。瓦の下にはルーフィングがひいてあるので、棟が痛んでいる場合でも軒先で漏ってしまいます。

一般住宅を点検するときの心得

 一般住宅は、外からみると町家と違ってわかりにくいといえます。柱が見えてませんからね。そこで、ハンマーと双眼鏡をもって点検するわけです。
 また、今の建物は密閉度がたかく、また部屋と部屋の温度差も大きいのでどうしても結露がしやすくなってますね。

屋根

 今の建物は屋根の補修がしにくくなってますね。というのは、日本瓦はいいが、カラーベストとか、洋瓦とかは、補修がしにくいといえます。日本瓦は痛んでくるとパカッと割れるのですぐわかりますが、洋瓦はなかなか割れないので、痛みが見つけにくいといえます。また、日本瓦は1枚だけ取り替えやすいのですが、洋瓦だとなかなかうまくいきません。
 カラーベストについて耐久性に疑問をもたれている方もいらっしゃるようですが、実はカラーベスト自体は結構長持ちします。でも、鉄板が痛みやすいんですね。

 クッションフロアというのは、コンクリートとかコンパネの上に貼られていますが、端がめくれる場合が多いですね。風呂の入口とか、台所の端とかですね。これは、水が廻っている証拠なので、もう痛んでいます。取り替えてもらったほうがいいと思います。
 一方真中が浮くのは押さえ方が悪いだけで、心配ありません。

 クロスの変色ですが、上が変色しているケースは、断熱材がズッて壁の中で結露している証拠です。早めに壁をめくって手当てをして下さい。一方、下が変色しだしたら、町家と同様、外壁とか床下とかのどっかから水が入ってきたと考えられます。良く点検しないと原因が掴みづらいので、お近くの信用ある工務店さんに相談してみてください。
 壁と壁の継ぎ手のところで、クロスの隅がずれてきたら、どっか、家に偏重をきたしている証拠なので、安易にクロスの張替をしてはいけません。クロスの修理の前にどこか基礎が割れていないか、よく点検してみてください。
 風呂のタイルが割れたという場合ですが、たいがい1mほどの高さのところが割れます。これは、そこまで、コンクリートブロックを積んでいるからです。昔は、ユニットバスではなく、住宅金融公庫の融資を受けるためにはブロックを1m積む必要がありました。これはあまり心配しないでいいと思います。木とブロックと膨張係数が違いますのでどうしてもそこで割れるのです。
 それよりもむしろ、タイルの端が細かく割れるというのが危険です。これは、お風呂の基礎が下がっているとか、建物の不同沈下が起きている証拠ですので、早めに専門家に診てもらってください。

外壁のクラック

 割れて水が入る場合と、入らない場合があります。外壁を作るときに、「ここで割れて欲しい!」というところに目地を入れます。窓の脇とかですね。こういうところのクラックは、避けてとおれないものだと思った方がいいです。つまり「外壁材も伸びたり縮んだりするので、あまり被害の少ないここで割れて!」というところだからです。
 こういうところの割れは、外壁材の下地で防水しているので中に水が入る心配はありません。でも、ここ以外のところで割れると、いっぱつで中に水が入っていきます。それが、家の中でよくわからなくても、目に見えないところで木が痛んでくるのです。こうした場合は早く直したほうがいいと思います。

アルミサッシ

 これが動きにくくなっても、少しであれば、サッシ脇のねじを調節することで動きやすくすることができます。でも、もともと、サッシの枠をねじって取付けてしまった場合は大工さんにたのまないと動きやすくすることはできません。

質疑応答

Q. 水道を止めると、大きな音がするが、これはなんですか?

A. これは、水道の中に入っている気泡が上にたまってくる。水をながすと、そこの圧力が低下し、元の状態に戻るときにバンという訳です。2Fの水道を使ってないときとかによくなりますね。これは、そもそも水道の配管が悪い証拠です。水道管の途中に空気の溜まる場所があるんですね。これを直そうとすると、30cmに1箇所くらいの割合で水道管を動かないように固定してやると、ましになります。
 
 ユニットバスで音がする場合、給水の配管場所がカランから離れているんではないですか? 何処のメーカーでもカランの近くにバスタブの下をみられるように、壁面が取り外せるようになってます。そこから下を覗いてください。1.5m以上の距離を水道管が固定されていないようであればそれが原因です。

Q. 台風の時、壁がぬれてしまうのですが…

A. 古い建物の場合、台風のときに雨が入ってくるというケースはたしかに多いですね。この雨を防ぐにはどうするか… いちばん簡単な方法は、葦簾とか、スダレとかをつけると結構ちがいます。ガラス戸に雨が直接かからないので、壁に染み込む水の量が違います。よく、「台風がくるから、スダレをはずさないと…」という人がいますが、これは、逆効果なんですね。

Q. 油壁の手入れはどうしたらいいのですか?

A. みがき壁というものですね。ほんとうは、つばき油を真綿に染み込ませて磨くといいのですが、素人の方はなかなかやりずらいと思いますので、番茶でふくといいと思います。番茶を煮出してそれで、拭く… それでもだめなら、ミガキの上から塗る塗料がペンキやさんで売ってます。

Q. カラーベストの耐用年数は?

A. 30年~35年といわれています。メーカーの話ですけどね。でも、端のところに鉄板(いわゆるカラートタン)をつかっているので、まずそこが駄目になります。鉄板の寿命は15年程度ですしね。ただ、15年で駄目というわけでなく、15年で「駄目になる可能性がある」ということです。たとえば、日本瓦は35年といいますけど、唐招提寺なんかは、200年もっている瓦もありますから、一概に何年で駄目とは言えないんです。

Q. 樋の大きさはどのくらいがいいんですか?

A. 105㎜の樋ですと、30㎡しか無理です。それ以上の面積を受けるのであれば、120㎜の樋が必要です。よく、樋のかっこがわるいからといって、90㎜の小さい樋をかけられるお家もありますが、90㎜の樋は15㎡くらいまでしかもちません。

Q. ガス屋とか、水道屋とか、何処に頼んだらいいのかわかりません。工事後法外な金額を請求されるということを良くききます。あと瓦屋も…

A. ガスとか、水道とかは、大阪ガスとか、水道局に照会すればいいとおもいます。そうすると指定の業者さんがきてくれます。また、地域のお知り合いの工務店さんに聞いてもいいです。
 瓦屋さんも、良く知らない業者ではなく、信用のおける地元の工務店さんとかに聞いてみたらいかがでしょうか。

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