古民家の改修 竹の節欄間の家
ご縁があって、お寺の庫裏を改修することに。江戸の終わりごろの建物だが、その後、明治・大正・昭和と何度も改修を重ねられたお住まい。
今回は、そうした改修履歴を一度リセット。建物を当初の状態に戻した上で、住みやすいように断熱・気密・環境・そしてバリアフリーに留意してリフォーム。
後付の縦繁格子と軒瓦の美しいコントラスト。
外壁は、漆喰塗とワビスケで仕上げる。
典型的な日本家屋の顔。
縦繁格子戸の玄関と、横桟戸の収納。
玄関土間の下に、現代の配管を全て隠蔽。その際、靴脱ぎ石・葛石も据え直し。
一見、昔から変わらぬ風景。
母屋が破損していたため、小屋組から全て新調。
屋根は既存のまま存置。
ワビスケで仕上げた地松の梁と、白木のままの桐板天井のコントラストが美しい。
家族が庭を眺めて過ごす空間。
クマル材のウッドデッキがリビングを広く見せる。
全開できる建具。
硝子戸と網戸は外壁の外へ、紙張障子は外壁の内へ。
苦労した収まりの一つ。
既存の構造材をそのまま生かした仕上。
勝手口はアルミを木桟戸に入替。
火袋から差し込む日差しがまぶしい。
奥座敷から待合を望む。
構造はそのままだが、垂直・水平を直す。
見えないところに大工の腕が生きる。
少し角度を変えて待合の向こうの玄関を望む。
直硝子障子からの間接光が部屋をひきたてる。
寝室。
埋込照明と前栽の建具は、いずれも吹寄の紙張障子。見付を細くし、繊細な雰囲気に。
蟻害、腐朽のため一新した濡縁。
ほぼ、昔の意匠をそのまま復元。
思い出を残すための小さなお手伝い。
職人の業が冴える 改修工事の妙
今回は、私のブログ「町家改修の向こう側」から写真とコメントを転載。こうして編集してると、昔の工事していた頃の思い出が蘇る。解体からはじまり、塗装まで、さまざまな職方の顔が浮かんでは消える。
長丁場の8ヶ月。いや、あっという間か。
施主様と打ち合わせした日々も、今となっては懐かしい。
【静寂】
解体工事着手前。現場の廻りを整地し足場を設置。
再利用する建具、破棄する建具などの選別、柱や鴨居材などの養生を施す。
最後に現場をゆっくりと巡回し、忘れ物がないか最終確認。
既存の構造体を眺めながら、出来るだけ[よい状態]である事を祈る。
嵐の前の静けさ。
施主様の夢が詰まった改修工事が、いよいよ始まる。
【現実】
解体が進むにつれて、構造の全貌が少しずつ明らかに。
豪快な大引。そのわりには華奢な束。大引は途中で切断されて継がれている。
もともとは柱が束石(ひとつ石)まで降りていたはず。しかし、以後の改修で柱は切断され、大引が柱の下を走る。その大引を支える不安定で華奢な束。
この束にかかる荷重とその役割を考えると、とても心配。
【役割】
写真は大引が取り付く柱。
柱には蟻害を受けた痕跡が残る。その為か、柱の足元には根継ぎが施されている。
でも、大引を仕込む為なのか、根継ぎされた柱は大きく欠き取られその役割を果たしていない。接続する大引もただ乗っかっているだけの状態。根継ぎを施工した人と、大引を仕込んだ人はたぶん別人。
根継ぎを施工した人の気持ちになると、なんとも切ない。
【検討】
まだ、補強を必要とする解体は残っているが、ひとまず解体(リセット)工事が一段落。
先日より、大工主任が現場に登場。
まずは現況把握。解体前に作成した図面と、解体後を比較し間取りを検討する。既存建物の[歪み]や[不陸(水平)]も同時に計測。
[マイナス]の工事から、[プラス]の工事へ舵を切る。
【矯正】
明らかに傾いた単管足場(写真右側)。足元から建物側へと倒れている(約15cm)。
この足場は解体時に組んだもの。もちろん組んだ時は真っ直ぐで、この足場を利用して外部の解体などを施工。今は危ないので利用不可。
もともと、傾いた建物に垂直に立てた足場。が、建物が垂直になったので足場が傾いた。この単管足場が、もともとの建物の傾きを教えてくれる。
【入替】
既存の桁は残念な事になっていたので差し替える。が、仕口には被害が及んでいなかったので再利用。既存の仕口に合わせて材を加工し、最後は[シャチ栓]にて締結(桁下部の黒い部分)。
一見、手間が掛かっているように見えるが、実は一番利口な方法。また、材の損傷も最小に抑えられるので一石二鳥。
でも、[仕口]の[仕組み]を理解している大工が必要。
【根継】
根継ぎが施され、蘇った柱。
[金輪継ぎ]を施された柱。構造的な問題はひとまず解決。
写真左側の柱側面は、もともと[土壁]が取り付いていた場所。改修により、土壁を撤去して開口部をユッタリと確保する事に。いざ、土壁を撤去すると、[埋木]だけでは対応できない細かな傷が・・・。
柱を交換した方が・・・・との意見もあるが、出来るだけ古材を再利用する工夫のひとつ。
【導師】
現場で空間と対峙する、棟梁の足達さん。一通りの構造改修は完了し、現在内部造作中。
このような伝統的な建物の改修(再生)は、[型]がある様で無い。その為[その場所]、[その箇所]での検討が常に必要になる。
意匠的な問題、構造の問題、設備の問題等の諸条件を全て考慮した上で最善の解決方法を導き出す。
竣工の日まで、毎日この作業の繰り返し。好きでないとできない。
【化粧】
[化粧小屋梁]の刻み。
もともと仕込まれていた化粧小屋梁(京間2間/4m)。しかし、径が細く屋根の重みに負けて折れていた。
写真は[地松の梁]。現場で[納まり]や[見せ方]を検討して刻んでゆく。構造上の問題を解決し、かつ[見せる]技が必要。
設計図では表すことが出来ない。また、設計図で詳細を書くことは逆にナンセンスな仕事のひとつ。
【軒裏】
濡縁の[杉普請(すぎぶしん)]の化粧軒裏。
柱と丸桁は既存再利用。見た目の影響が大きい[寸法]は、全て既存の材料から採寸し再生。
塗装を施して、既存の桁や柱と見た目を合わせる事もできる。施主様と相談した結果、今回の軒裏は経年(自然に任せる)を楽しむことで意見が一致。
除々に飴色に焼けてくる化粧軒裏。これからが本当に楽しみ。。
【洗出】
玄関土間の施工。仕上げは[御浜石の洗出シ]。御浜石[2分・3分]と少し墨を入れたモルタルを調合して施工。仕上りは職人によって異なる為、サンプルを作った職人が責任を持って施工する。
現場施工の一発勝負。
息の合った2人が明確な役割分担のもとで土間に挑む。工業生産品では味わえない、不均一で人間味のある床仕上のひとつ。
【輪郭】
新設した小屋組に塗装を施す。これら小屋組は[フェイク]ではなく、実際に屋根荷重を支える構造体。既存の小屋組を、屋根(瓦共)を残したまま撤去。その後に組み直した思い出深い構造体。
既に施工されている天井板に気を配りながら、丁寧に塗料を刷り込む。これら塗装工事も仕上がりの良し悪しを左右する重要な工程のひとつ。
今回は、図面に書くのが困難な仕事も多く、足達棟梁には沢山の事を教わった。
竣工説明時、施主様のお父様が、内覧しながら、涙ぐんでおられるのを感じ、この仕事に携わることができて本当によかったと思う。
解体・基礎・設備・左官・塗装、そして大工… さまざまな職方の技の結晶が建物として残る。感謝、感謝。


