アラキ工務店 京都市右京区:京町家、古民家、大工さんと建てる家

アラキ工務店 株式会社 アラキ工務店

古民家の再生 有楽窓のあるの民家


レンガ造りの門柱

 昭和初期に建てられた民家です。
 地盤が弱い地域で、あちこちが不動沈下し、傷みが進行していました。当初は建替え予定でしたが、趣の有る玄関廻りを捨てきれず、リフォームする事になりました。
 今回は、基礎しっかりさせることと、建物の水平垂直をきっちり直すことを一番に考えて取り組みました。

民家のリノベーション 1) 施工

解体/配筋/ベタ基礎
 解体 / 配筋 / ベタ基礎 

 お家が大きく傾いているのは、地盤の弱さが原因とわかりました。
 しっかりと足元から建物を支えなければ、せっかく内装を綺麗にしても後で壁にヒビが入り、台無しになります。そこでベタ基礎のように格子状に異形鉄筋を編み、コンクリートで耐圧盤を作る方法をとりました。
 柱のまわりだけはコンクリートを流さずに置いておき、建物を持ち上げてから後打ちします。その際、耐圧盤の上に荷重がかかるよう鉄筋を組むことで、打継部が弱点になりません。

ジャッキアップ3態
 ジャッキアップ3態 

 耐圧盤に油圧ジャッキをかけて建物を持ち上げます。
 外部は土の上にジャッキをかけると、建物が上がらずにジャッキの足元がずぶずぶと土に埋まっていくのですが、内部はコンクリートをうっていますので作業がしやすく、無理な持ち上げ方もしないので建物にも良いです。幸い、最大で12㎝傾いていた箇所も水平まで戻り、建物が健全な状態になりました。
 現況の測定から、基礎屋さん・大工との知恵を出し合って方針を決めるまでの段階は、今回の工事1番の山場であり、難しくも面白いところでした。

荷物(~~)/床組/左官
 荷物(~~) / 床組 / 左官 

 土間まで落とした床組みを、再び復旧します。
 左官屋さんはジャッキアップで割れた土壁をつけ直し、漆喰塗の下地を塗ります。
 いつものことながら、仕上りのイメージは畳や襖が納まるまで、なかなか伝えるのが難しいです。

古民家のリノベーション 2)竣工

 お施主さんはこのお家や、かつて周辺に立ち並んでいた建物の面影にとても愛着をお持ちのようでした。そのため外観は既存の形を残し、変更する箇所も伝統的な意匠から大きく外れないようにしています。

ファサード 玄関
ファサード / 玄関

 玄関の敷居は元は木で入っていましたが、傷んでいたので石に交換し、真鍮レールを仕込んでいます。
 仕上がると目立たないところなのですが、後まわしに出来ないこのような箇所にどうしても手間がかかってしまいますね。

取次間 縁側
取次間 / 縁側

 スリガラスに植栽の影がゆらゆらと映り、自然の気配が感じられる綺麗な取次です。建具は全て洗って再利用しています。
 坪庭は庭師の松本さんが、工事前から庭にあったものや、会社の倉庫に転がっていた石で整えてくれました。
 背高のっぽの竹は、工事前から生えていたものの名残です。疎水沿いを散策する人から中が見えないように、塀を少し高くして簾をかけています。

1F和室 廊下
1F和室 / 廊下 

 和室はジャッキアップの為に床を落とし、天井も一部めくりましたのでそれを復旧しましたが、そのほかは特に手を入れていません。
 水廻りが並ぶ廊下には、汚れ防止加工された戸襖を並べました。つきあたりは上に障子紙を貼る源氏襖風にして、中廊下が息苦しくならないようにしています。

LD 2F和室
LD / 2F和室

 ダイニングは既存の建物との兼ね合いで天井高が取りにくかったのですが、出来るだけ天井面を上げて、2階の床梁を一部見せるようにしています。
 「○大前の○々堂の雰囲気が好き」というお施主さんの言葉が記憶に残っていたので、それに近づくようにしています。2階の和室からは疎水沿いの桜の並木道が眺められ、春や秋は本当に良いことでしょう♪

押入階段 天窓
2F子供室 / 駐車スペース 

 子供室は他の部屋と少し雰囲気を変えて、カリンの突板を張っています。
 駐車スペースは工事前からお家の庭にあったものや、弊社で在庫していた古石を敷いています。石の多くはかつて市電が廃止された際に市民に払い下げられたもので、お施主さんもこの石を見ると学生時代を思い出すと喜んでおられました。

有楽窓  今回の工事は、定年退職を控えたお施主さんが生まれ育ち、独立された後も長年お母様がお住まいだったお家へ、ご家族と一緒に戻って生活されるための改修でした。
 この建物と暮らしの記憶にとても愛着をお持ちで、建物が良くなっていく度に、お施主さんが「亡くなった母も喜んでいると思います」と仰るのがとても印象的でした。お引渡し後用事で伺った際、お母様がお使いだった素敵な家具が置かれ、お気に入りだったベートーベンの曲が写真の脇で静かに流されている光景に出会い、有り難い仕事をさせていただいたなと、しみじみ感じました。
現場監督 松原 豊
 
このページの先頭に戻る